「こんにちは」
「元気に育ってる?」
会話のきっかけは、街の菜園で。
私たちフージャースは、2013年からシニア向け分譲マンションDUO
SCENE(デュオセーヌ)の分譲を開始しました。シニアマンションというと、どうしても建物内で生活が完結してしまいがちです。今回の「デュオセーヌ国立」は、マンションに併設する公園やレストランを通じて、居住者と地域の人たちのコミュニティ形成を目指しました。
「デュオセーヌ国立」のプロジェクトストーリーをご紹介します。
国立駅から徒歩22分、奥行き約200メートルの土地。
JR中央線 国立駅から徒歩22分、立川駅からは徒歩26分。2016年の秋、私たちは国立市と国分寺市にまたがるその土地を初めて訪れました。
駅からは遠い。土地を囲む国有地はフェンスが張り巡らされて殺風景。その条件だけで「マンションを建てるのは難しそうだ」と反射的に思いました。また敷地の形が、間口が約50メートルなのに対して、奥行きは約200メートル続く「うなぎの寝床」のような敷地で、これまでのシニア向け分譲マンションのセオリーも使えそうになく、その思いはさらに強くなりました。
しかし、難しいものほど人の気持ちを駆り立てるもの。フージャースでは2013年からシニア向けマンション事業「デュオセーヌ」をスタートし、この時はまだまだ事業はここからというタイミング。「この物件なら新しい挑戦ができるかもしれない」と思い直し、帰る頃には気持ちはすっかり変わっていました。
シニアマンションを地域に開く
今回の物件を作るにあたり、これまでデュオセーヌシリーズを開発してきたからこそ実現したかったことがあります。それは、シニアマンションを街に開く、ということです。これまでも併設のレストランを、地域の方に開放する取り組みは行っていましたが、建物内で居住者の生活が完結してしまうことが多々見られました。
今回の物件ではもう一歩踏み込んで、建物の一部と街を一体化させ、地域の人たちと話したり、活動をしたり、お住まいの方の「ふれあいたい」という気持ちに応える、心地よい居場所作りを目指すことにしたのです。
集まる場所がない
建物を建てるにあたり、私たちは行政や地域の自治会などにヒアリングを重ねて、マンションのプランを作り込んでいきました。自治会からは、「会議をするのに集まる場所がなく、遠方の集会所まで行っている」と相談をいただき、建物に併設するレストランを外部開放することで、地域の人が気軽に集まれる場所として使ってもらうことにしました。(※1)また、敷地内には自治会と共用の防災備蓄倉庫や防災井戸を設置して、有事の際でも互いに助け合う関係性づくりを目指しました。
公園作りに2年
大規模マンションを開発すると、お住まいの方だけでなく地域の方々も自由に使える提供公園を敷地に作ることがあります。
元々はマンションの敷地の一部なのですが、それを自治体に提供することから、提供公園と呼ばれています。今回の開発も、その対象でした。
せっかく公園を作るわけですから、「街の人の交流の場でありながらも、シニアマンションにお住まいの方にも使いやすく、プライバシーが守れるものにしたい。そして植栽には、武蔵野の緑を生かしたい」。私たちの中には、はっきりとしたイメージがこの時ありました。
しかし、提供公園は設置遊具の指定などがあり「児童公園」としてつくられるため、私たちの理想の公園づくりをすることは難しいことがわかりました。そこで国分寺市に相談すると、「デュオセーヌ国立の住民主体で公園の管理・運営をしてみませんか?」と提案が。国分寺市は、これまで提供公園を民間に委託したことはなかったそうですが、今回の私たちの想いに共感してくれてのことでした。
こうして今回の提供公園は私たちが設計し、その管理・運営はマンションの住民が主体となる、自主管理公園になりました。そして、これまでの提供公園とは異なり、訪れた人が自由に居場所を見つけることができたり、イベントがしやすいように、あえて遊具などは置かずに、見通しがいい芝生広場にしました。
街に開くと一言で言っても、行政とこういった一つひとつを会話を通じて解決していくので、全ての交渉が終わるまでには約1年半の月日がかかりました。初めての取り組みにもかかわらず、最後まで一緒にチャレンジをしてくださった国分寺市には感謝の気持ちしかありません。
一緒に活動する
デュオセーヌ国立には「けやき菜園」という、お住まいの方と地域の方が利用できる菜園があります。
国分寺市では「こくベジ」と言って、市内で収穫した野菜や果物などを地産地消する取り組みを行っています。私たちが併設するレストランでも、そのこくベジを取り入れることを決めていました。「それなら自分たちでも、野菜や花を育ててみたらどうだろうか?」と思って始めたのが、この菜園です。
手入れが必要な野菜や花を育てることで、外出のきっかけになったり、地域の方と一緒に作業をしたり、ちょっとした運動にもなります。レイズドベッド(立ち上げ花壇)を採用して、立ったまま作業をすることで、腰への負担も少なく高齢の方にも使いやすいように工夫をしました。また誰でも菜園を楽しめるように、育て方を教えてくれたり、日常の植物の手入れをしてくれるガーデンキーパーさんにも常駐で入ってもらいました。このけやき菜園は私たちの想像を上回る人気で、レイズドベッドだけではなく、露地栽培も合わせて行っています。
街の中に住む
こうして2019年11月、デュオセーヌ国立は完成しました。
当初は奥行き約200メートルの敷地の活かし方に苦労しましたが、地域の人を迎え入れる公園やレストランといったパブリックなスペースを入り口に、そこからエントランス、各住戸と緩やかにプライベートスペースへと移行する設計にすることで、その形状を活かしながら、お住まいの方それぞれが、居心地の良い場所を見つけられる計画になりました。
街にも段階的にマンションを開いていき、居住者の方がお住まいになってからは、街開きイベントを行って、芋煮を振る舞ったり、公園内の防災井戸を体験してもらいました。それ以降もコロナを考慮しながら定期的にイベントを行い、ハロウィンには200人以上の地域の方が公園へ遊びに来てくれました。これには主催者としても驚きました。
公園を設計した当初は、子どもが少ない地域だと思っていましたが、集まる場所がなかっただけで、今では芝生広場を子どもたちが駆け回る姿を見るようになりました。また、公園の使い勝手の良さから、近所の保育園の散歩コースにもなっているようで、子どもたちとお住まいの方が挨拶をしたりする様子も見られるようになりました。もちろん、けやき菜園も変わらず盛況です。
デュオセーヌ国立を通して、私たちはシニアマンションを街に開くことにチャレンジしました。コロナの影響で、当初想定していたプログラムが実施できていないところもありますが、お住まいの方と地域の方が交流しながら暮らす様子に、大きな可能性を感じています。また、集会所の提供や公園の設置を通して、地域に少しでも貢献できていたら嬉しい限りです。