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旅の仲間とコーヒーを飲みながら、
思い出を語り合う時間。
ツーリストのためのホテルを作る。
一見すると当たり前のようですが、リーズナブルな価格帯で宿泊できるホテルは、眠りに帰るだけの箱であることもしばしば。それならホテルを通して、旅のひとときを、もっと特別なものにしたい。
ホテル経験が全くなかった私たちフージャースが、ツーリストの本音にこだわって、手探りで始めたホテル事業。ホテルのデザイン性の高さ、コスパの良さ、居心地の良さを徹底的に考えて作り上げた「THE TOURIST
HOTEL & Cafe AKIHABARA」のプロジェクトストーリーをご紹介します。
ホテルを作る
忘れもしない、あれは2017年の年末のことです。「秋葉原にホテルを作る」ということで、社内から数名のメンバーが集められました。
当時はインバウンドの増加や2020年の東京オリンピックを見据えて、各社ホテルの建築ラッシュ。私たちフージャースもその波に乗って、ホテルをつくることになったのです。
しかし、社内にホテル事業の経験者はいません。集められたメンバーは皆、「ホテルのことが分からないのに、自分でいいのだろうか」というのが正直な気持ちだったと思います。
しかし、新しいことの始まりというのは、いつでも胸が高まるものです。こうなっては、やるしかありません。
そこからは、とんでもない方法の模索の日々。浅草や秋葉原を歩く外国人ツーリストに声をかけて、日本のホテルについて思うことをヒアリング。驚かれたのは言うまでもなく。ツーリスト向けのホテルを調べては見学に行ったり、調査会社とツーリスト向けの調査をかけたりと、自分たちが出来ることを手探りで進めていきました。
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ツーリストのためのホテルがない
こうした地道な活動の中で、たくさんのヒントを見つけることができました。
気軽に泊まれる価格帯のホテルの多くは2人用で、家族やグループで旅行に来ても、一つの部屋にみんなで泊まることはできません。また部屋が狭くてスーツケースを置けなかったり、複数のデバイスを持っているのにコンセントが足りなかったり。ホテルでの滞在が楽しみになるようなデザインではなかったり。
手頃な価格で宿泊するために、ビジネスホテルに宿泊する人が多い中、そこではツーリストが求めている条件を満たせるものがないことわかったのです。
あれもしたい、これもしたい。けれど…
ツーリストへのヒアリングやアンケート、社内での数え切れないほどのディスカッションを続け、やりたいこと、やるべきことが見えてきました。新規事業ゆえに担当者それぞれの思いも強く、本来であればコンセプトを固めなくてはならない時期なのに、まとまらず、設計だけが先へと進んでいきました。
「このままでは、良いホテルにならない」、私たちは追い詰められていきました。
そこでブランドプロデューサーの柴田陽子さんに、これまでの経緯を伝えて、一緒にコンセプトを考えて欲しいとお願いをしました。柴田さんはローソンの「Uchi café Sweets(うちカフェ)」のプロデュースをはじめ、多くの企業のブランディングを手がけていました。
こうして柴田さんにもチームに加わって議論を重ね、最終的には『Good stay with Good
coffee』というコンセプトを作ることができました。このコンセプトはホテルのデザイン性の高さ、コスパの良さ、居心地の良さを追求することに加えて、もう一つの付加価値として美味しいコーヒーと共に過ごしてもらうことができるカフェラウンジを作ることで、客室だけではない過ごし方を提供することをお約束しています。
コンセプトを実現するために、1階のカフェラウンジでは、最高ランクのスペシャリティコーヒーを24時間無料で提供し、スタッフ全員が美味しいコーヒーを淹れられるようにトレーニングすることも決めました。
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一杯のコーヒーから
私たちが一杯のコーヒーを通じてお届けしたいのは、コーヒーが生み出してくれる特別なひととき。カフェラウンジで、本を読むとき、音楽を聞くとき、1人でゆったりと1日を振り返るとき。仲間と一緒に旅の思い出を語り合うときも。翌日の計画を立てる時も。その傍らに、おいしいコーヒーがあることで、味わい深い良い時間を過ごしてほしいと考えました。
ですから、コーヒーを飲む空間にもこだわりたい。カフェラウンジは、吹き抜けから光が差し込む大きな窓と暖炉を。暖炉の前には様々な種類の椅子を用意して、お客様がその中から好きな一脚を選んでもらえるように空間を作っていきました。
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ヒントを惜しみなく活かす
地道な活動の中で得たヒントは、客室のデザインにも積極的に採用しています。
まずは、コネクティングルーム。ほとんどの部屋を隣の部屋と繋げることができるコネクティングルームにすることで、3人以上で泊まれるようにしました。荷物が多いツーリストを考慮して、ベッドを小上がりにして、ベッドの下にはスーツケースを入れることができるようにもしています。シャワーのみを使う人が多かったことから、潔くバスタブも作りませんでした。
また、誰もが居心地の良さを感じられるように、全体のデザインも、スモーキーブルーとラテブラウンをキーカラーに、ユニセックスなデザインに仕上げました。
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建築的な苦労は言い出せばキリがないのですが、ホテルの外廊下は、特に苦労した点です。通常のホテルは内廊下にすることで高級感を演出しますが、ここは外廊下。外廊下であることで高級感が損なわれることを払拭するために、様々な素材を国内外から探し周りました。そうして、最終的には耐久性に優れ、外廊下でもおけるカーペットをベルギーから輸入することにしたのです。これにより、落ち着いた雰囲気を演出することができるようになりました。
また、ホテルに人が一番集まるのは夜ですから、夜の見え方にこだわって照明の位置や角度を決めていきました。そして、グラフィックデザイナーさんにロゴマークやサイン計画をお願いし、外廊下をはじめ共用部の雰囲気を作り込んでいったのです。
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道半ば
こうして試行錯誤の末、「THE TOURIST HOTEL & Cafe AKIHABARA」は無事に完成しました。
「これで本当にいいのか?」と会社から問われる中で、メンバー同士で常にホテルの完成イメージを共有して、これが正しいと思って突き進んできた道は、私たちにとって忘れられない日々です。振り返れば、本当にあっという間のことでした。
本来であれば2020年7月オープンの予定でしたが、コロナの影響で2020年9月に延期。当初想定していた外国人ツーリストの来場は、残念ながらまだありません。また、オープン後に実施する予定だったサービスの中には、コロナの影響で、まだ実施できていないこともたくさんあります。
そんな状況でも、日本人ツーリストの方々に楽しんでいただき、旅行サイトからの評価も高くなっているのを見ると、担当としては嬉しい限り。また、当初思い描いていた通りに、暖炉の前で、好きな椅子を選んで、ゆっくりコーヒーを楽しんでいるお客様の姿を見れることは、何より嬉しいことです。
予期せぬ状況下ではありますが、一人ひとりのお客様に特別な時間を過ごしてもらえるように、私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
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