明日は、来年は、何をしよう。
年齢を重ねることが楽しみになった。
私たちフージャースは、2013年からシニア向け分譲マンションDUO
SCENE(デュオセーヌ)の分譲を開始しました。入居待ちが続く特別養護老人ホームや、事業主の経営状況に左右される利用権型老人ホームではない、シニアが安心して暮らせる住まいの選択肢を作りたいという思いが、このプロジェクトの始まりにはあります。実は、住宅業界でシニアに向けた分譲住宅を本格的に手掛けたのは、私たちが初めてでした。だからこそ、その誕生には長い道のりがありますし、発見があります。
超高齢化社会の住まいの実現に真正面から向き合い生まれた、シニア向け分譲マンションDUO SCENEのプロジェクトストーリーを紹介します。
シニアが住む家がない。
2000年に介護保険法が施行され、それまでは家族で支えていた介護が、社会全体で支え合う仕組みへと変化しました。それをきっかけに規制緩和も行われ、介護ビジネスに民間企業が参入できるようになります。
しかし1〜2年が過ぎると、介護事業者が数多く生まれ、ケアの質が問題視され始めます。事業者の参入は、介護サービスの基盤作りでは成果を上げましたが、その反面、給付費が膨らみ、保険料アップやサービスの質の低下につながる恐れを生み出しました。こういった流れを受けて、コストがかかる施設の介護ではなく、在宅介護や、要介護の発生をできる限り遅らせる介護予防へと舵が切られます。
そんな中あったのが住まいの問題でした。これまで多くの人を受け入れてきた医療機関の療養病床は廃止が決定。特別養護老人ホームは、重介護者の待機に長い列ができていました。こういった問題を解決しようと、2013年にはサービス付き高齢者住宅も誕生しますが、住戸が狭かったり、顧客のニーズとのギャップがあったり。また従来の老人ホームは利用権型のため、事業主の経営状況に左右され安心とは言えない状態にありました。不便な自宅を出たいと思っても、高齢者が安心して暮らせる住まいは、非常に少なかったのです。
きっかけは突然に。
高齢者住宅への関心は常にありながらも動き出せないまま、きっかけは突然やってきます。当時港区にあった老人ホームの事業者が破綻する可能性があるという話が、私たちの耳に入ってきました。
150世帯のうち20世帯がまだお住まいで、倒産することが決まれば全員が退去になる可能性が。非常に高額な老人ホームだったので、行き場を無くす不安と、財産を無くす不安で、入居者の方の心労は相当なものだったと思います。その状況を見て、私たちはその物件を再生することを決めました。介護について右も左もわかりませんでしたが、入居者の皆さんの不安をとにかく無くしたいと、利用権型から、通常の分譲住宅と同じ所有権型のマンションへと変更し、シニア向け分譲マンションとして再スタートさせたのです。
年齢を重ねることが楽しみになる。
こうして始まったシニア向け分譲マンション事業でしたが、港区の物件はその価格帯から限られた人しか入居できません。もっと価格を下げて、もっとたくさんの人に住んでもらいたい。住み慣れた家でも、高齢に伴って不自由な場面も出てきます。健康なうちから医療・介護予防に取り組んだ生活をすることで、健康な時間(健康寿命)を伸ばすことはできます。そして、できる限り「自分らしい時間」を過ごせるようになって欲しい。年齢を重ねることが不安ではなく、楽しみになるような、そんな住まいを作りたいと思いました。
こうして港区の物件をきっかけに、もっと多くの人にシニア向け分譲マンションを届けるDUO SCENEのプロジェクトが始まりました。
先が見えない道。
シニア向け分譲マンションは、どこの大手不動産会社も注目していた事業です。しかし、シニアを対象としたソフトサービスの提供は未知数ですし、人の生死に関わる事業になるので参入できずにいました。もちろん介護事業者は不動産事業が不得手なので参入できません。そして何より、そこに本当に需要があるのか分からなかったので、シニア向け分譲マンション事業は、これまで誰も本格的に挑戦しない事業でした。
しかし、当時からファミリーマンションを単身高齢者が購入したり、子育てが終わった初老の夫婦が戸建てを片付けて、マンションに移り住む動きはよく見られました。さらに、2011年の東日本大震災によってコミュニティの重要性が再確認され、同じ背景を持つ人たちが集まって、楽しく安心して暮らせたらと思っていたこともあります。
「必要としている人が、必ずいる」。私たちは、そう信じて先が見えない道を歩き始めました。
いざ事業を進めてみると、事業そのものが社会に認知されていないので、行政や近隣の医療介護事業者に理解してもらうまでが大変で、協力先探しは難航しました。また、マンションの設備や仕様を決めるのもゼロからのスタートで、介護施設やホテルを100施設以上見学しました。見学先は海外にも及びます。
最も難航したのがスタッフの選び方や教育でした。24時間常駐するスタッフですから、毎日の暮らしに寄り添って細かな気配りができることが重要です。どんな人が向いているのか、どんな研修をしたらマインドやスキルが育つのか。あの港区の老人ホームで現場を取りまとめていたメンバーに仲間に加わってもらい、一つ一つ組み立てていきました。今、振り返ってみると、「思い描くシニア向け住宅をなんとかしてつくりたい」というマインドで乗り切ったところが大きかったと思います。いい思い出です。
ちょっとした楽しみの積み重ね。
2年間の試行錯誤を経て、2013年にDUO SCENEはようやく完成しました。
スタッフ同士で考え抜き、マンション内に温泉やレストラン、24時間の見守り・介護のサービスがついたシニア向けの分譲マンションになりました。各住戸は、健康な「今」も住みやすく、「将来」介護が必要になった時にも安心して暮らせるように工夫を重ねています。
実際に入居が始まると、居住者同士で挨拶が生まれ、自然と関係性が生まれていきました。中にはもちろん、スタッフとだけ会話をされる方もいますが、私たちが居住者の安全・安心を守るためにも、毎日顔を合わせるスタッフとの交流は、とても大切なことです。
居住者の方からは、従前の自宅から転居することで、これまで抱えていた不安や不満から解放され、気持ちに余裕が生まれたという話もよく聞きます。その余裕で今後の暮らしを良くしたいと気持ちが働き、次の行動につながっていくようです。各物件にあるサークル活動は、居住者の方から自発的に生まれ、1物件あたり15個前後にもなりました。
ここで1つ印象的なエピソードを紹介します。DUO SCENEにお住まいの94歳の書道名人のお話です。毎年マンション内で開催される文化祭に作品を出展したりと積極的に活動されていましたが、最近は体調のせいもあってか自宅に留まりがちに。その様子を見たスタッフはとても心配していましたが、名人から「次の文化祭のために頑張るよ」と声をかけてくれたそうです。文化祭という年に1度のイベントですが、こうした日々の生活の中での様々な瞬間が、生きがいにつながることがあります。名人は来年に向けて、何を作ろうか考えることが生きがいにつながっているようです。私たちは、それを聞いて、心から嬉しく思いました。
2021年現在、DUO SCENE の開発は12物件になりました。
DUOSCENEを始めて気づいたことがあります。それは、安心・安全な暮らしの土台を整えることが、私たちの仕事の上で最も大切ということです。暮らしの土台を整えると、居住者の心に余裕が生まれます。すると、居住者は自然と暮らしの中での楽しみを探すようになります。ここで暮らすことで、ちょっとした楽しみが積み重なり、それが生きがいになっていく。その生きがいにたくさん出会えるように、私たちはこれからも挑戦し続けたいと思います。