完成までのストーリー

「明日ひまな人!」
「庭でBBQでもする?」
そんな会話が日常にある暮らし。

2021.08

賃貸住宅での暮らしを、もっと楽しくできたら・・・お気に入りの壁紙を貼りたい。庭で菜園や焚き火をしてみたい。マンションの人と知り合いになりたいなど、暮らしの中で挑戦してみたいことは様々です。けれど、自分の持ち物である分譲住宅と違って、今の賃貸住宅のルールでは、それを叶えることはなかなか難しい。今回は、賃貸住宅での暮らしを豊かにしたいという想いから始まった団地のリノベーション、「いろどりの杜」のプロジェクトストーリーをご紹介します。

綾瀬駅徒歩16分、築57年、
敷地面積は5800平米。

私たちと旧東綾瀬団地の出会いは、2017年11月のこと。昭和30年台に建てられたこの団地のリノベーションと、完成後の管理、そしてコミュニティ運営の委託先を探してUR都市機構で公募がありました。
現地に向かってみると、綾瀬駅徒歩16分と立地条件は厳しいものの、都内では珍しい5800平米の広大な敷地と庭が。「この庭を一番魅力的に活用できる住宅はなんだろう」と心が躍りました。

リノベーション前の旧東綾瀬団地(2017年撮影)

アウトドアとDIY。

この企画を考え始めた当時は、ちょうど「ソロキャンプ」という言葉が出始めたころで、アウトドアブームが盛り上がりを見せようとしていました。そこで私たちは、「アウトドアが好きな人ならば、庭を上手に使ってくれるのでは?」と、アウトドア雑誌の編集者に話を聞いたり、キャンパーに話を聞いていきました。そんな中で、辿り着いたのがDIYでした。
アウトドアは、自然の中にある限られたもので、知識や経験を生かして、創意工夫しながら自分らしく時間を楽しむもの。その考え方を持つ人たちだからこそ、暮らしを自分らしく作り上げるDIYを好む人が多いことがわかったのです。この気づきから、居室内のDIYを可能にすることを決め、それを軸に企画を練っていきました。

住民がシェアして使えるDIY工具(2021年撮影)

作る暮らしを育てる。

今回の団地を考えるにあたっては、私たちの賃貸住宅への想いも強く影響しています。多くの賃貸住宅では、次の居住者への住み替えを前提に、壁の色を変えたり、共用部を自由に使ったりすることが難しいのが現実です。しかし、色々なライフスタイルがある中で、できあがったキレイな家に住むことだけが魅力的な暮らしではありません。不格好でも、自分で手を入れて作れるものにしたい。だからこそ今回のプロジェクトでは、住宅というハコを作るのではなく、この場所を通して生まれる体験を作りたいと思いました。
本が好きな人は、本棚が作れる。料理が好きな人は、一緒にBBQを楽しむ友人が作れる。そんな想いを形にできる場所にしたい。人は手をかけた分だけ、愛着を持つようになります。その愛着が、豊かな暮らしにつながっていって欲しい。そういった気持ちを込めて、「作る暮らしを育てる」という物件コンセプトを決めました。

間取りは同じでも、
個性が違う「いろどりの杜」。

コンセプトが決まると早速、物件の間取りや具体的な仕様を詰めていきます。居室は、DIY初心者でも扱いやすい建材を使ったり、全員がDIYをするわけではないからと、DIYしなくても住める間取りにしました。庭には、工具を借りたり、作業ができる小屋を作ったり、住民が自由に使える菜園やBBQスペースも作ることにしました。
居住者によってはDIYで作った家具を入れたり、壁を塗ったり。反対に何もせずに、室内の無垢材の風合いを楽しむ居住者も出てくることでしょう。住まい手によって家の個性が色づいていき、それがこの団地の個性になっていって欲しいと、私たちはこの団地を「いろどりの杜」と名付けました。

モデルルームでは DIYの一例を展示(2019年撮影)
TV台も椅子も、全て住んでいる方のDIY(2020年撮影)
菜園が楽しめる庭付住戸も(2020年撮影)

人との繋がりが、人を育てる。

団地をつくる中で、もう一つ叶えたかったことがあります。それは様々なスキルを持つ住民が集まって、それを生活の中で交換したり、互いが刺激しあうことで成長できるということ。そのためにも、人と人が緩やかにつながる仕掛けが必要でした。
そこで、住民の関係性を作ったり、イベントを開催するなど、コミュニティの土台を作ってもらうために、「はじまり商店街」(※)にコミュニティビルダーとしてチームに加わってもらうことにしました。しかも彼らからは、この壮大な実験のために「団地に住みたい」と提案があり、入居してもらうことに!
DIYに限らず菜園があったり、庭でキャンプができたりと自由なこの住宅で、「ここまでやっていいんだ」と周囲に真似をされるような人。そして、ここで何かしたいと思った時に住民の背中を押してくれる人に住んで欲しいと思っていたので、その申し出に嬉しい気持ちでいっぱいになりました。
また、DIYは専門的な知識が必要ですから、教えてくれる先生として、大工さんに入居してもらうことになりました。コミュニティビルダーと大工さんが住み込む団地というのも、なかなかありません。

※はじまり商店街:ジャンル問わず、まちづくり・場づくり・ファンづくりを軸に、コミュニティの主体者に寄り添いながら課題解決を行なっている会社。

大工さんがDIYをレクチャーしてくれる、シェア工房(2020年撮影)

「ハレ」と「ケ」。

2020年2月から入居が始まり、感染防止に注意を払いながら、住民のみなさんが企画して、今日までイベントを重ねてきました。それは、団地に近隣のパン屋さんを誘致しての「パン祭り」のような大きなものから、日々のごはん会や家具作りなど様々です。
どうしてもパン祭りのような「ハレ」に目が向きがちですが、コミュニティの自走のためには、日々の暮らしの中での「ケ」のイベントが自発的に生まれてくることが大切です。そのために、住民同士が気軽に情報交換できるオープンチャットを準備しました。「美味しいパン屋を見つけたよ」、「虹が出ている!」など、フランクな内容がほとんどですが、この日頃の交流が住民同士のリアルな繋がりになり、そこからごはん会といった「ケ」のイベントへとつながっています。これはすでに、私たちが当初描いていた想像をゆうに超えていて、驚きもあり、喜びもあります。

住民主体で実施したBBQ(2021年撮影)

最後にひとつ、いろどりの杜での暮らしを象徴するエピソードを紹介します。
春先に団地の夜桜を見ようと、お花見をした時のことです。花がよく見えるようにと投光器を持ってきた大工さん。料理が得意な人は、ご飯を振る舞いたいと家から中華鍋を持ってきました。それぞれの「どうしたらもっと楽しくなるだろう?」という貪欲な思いが見えて、みんなで笑ってしまった瞬間でした。花見の途中、団地の壁の白さに気づいた住民が、プロジェクターで団地の壁にテレビゲームを投影することもありました。「何でも、まずはやってみよう!」と行動に移すのも、この団地らしさです。

今回の新型コロナウィルスによって、家にいる時間が長くなり、友人とも気軽に会えなくなったため、私たちは足元の日常や地域へと目が向くようになりました。コンビニで住民と偶然出会って軽く立ち話をしたり、2階のバルコニーでテレワークをしている居住者に挨拶をしたり、そんな、「日常が楽しい」ことが価値になっているように感じます。いろどりの杜は、それを叶えてくれる絶好の場所なのです。

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